今日、ミヒャエル・エンデの“モモ”の冒頭を読んでいて、

“考古学者”

の文字に突然、引っ張られて急に過去の映像がありありと浮かび上がる。


“今度、考古学者がウチの学校に来るらしいよ~”
“なんかスゴイひとが来るらしいよ”

との噂が高校中に流れはじめ、
興味深々に膨れ上がったみんなの期待の渦のなか、その人は現れた。

何しろ考古学者だ。
そんなの映画のなかとか小説の中にしか出てこない。
そんな人物が突然、一年だけ、現代社会の授業をしてくれるらしい。

先生方のハナシによると、
民族歴史博物館の館長に来年就任されるのだが、
何だか一年間スケジュールが空いたから、その間母校で教えたいとのこと。

スゴイ人だから、みんなもぜひこの機会に交流させていただきなさい。

どんな人なのかな、すごいかっこいい人かなあ、と皆がそれぞれ想像するなか、
現れたのは、意外とフツウの、小柄なおじさんだった(すみません!)。

でも、何から何まで、風変わりな人物だった。

ウチの学校は進学校だったので、教師は皆わりとしゃきっとしたスーツな感じだったのだが、
その人はかなりよれっとした服で教室に入ってきて、
教壇に立って、
開口一番、

“私のことはボスと呼べ。”

ええ~!?

訳が分からないまま、とにかくその人はボスになった。

授業も完全に、教科書を無視して進み、
けれどあまりにもおもしろいので、皆、グレーな受験戦争中ちょっと気が抜けたような気がする。

高校3年の春。

私は国公立医療系クラスにいた。

なんで国公立医療系なのかというと、
ウチの学校では、国公立理系、国公立文系、国公立医療系、
それから私立理系、私立文系と、それぞれ志望大学別にクラス分けされていて、
多い分野は2クラス3クラスあったり…という感じになっていた。

で、芸大志望、なんてのは高校を間違えた異端児てき位置づけで、数百人中わずか3人しかいなかったので、国公立医療系のクラスに3人混ざることになったのだ。

その3人は絵画がやりたい私と、映像をやりたいSちゃんと、声楽を志すAちゃん。
ほんとうに、この二人がいてくれて、17歳の私がどんなに助かったか!

まわりはカウンセラーになりたかったり、臨床心理士だったり、介護福祉士だったり、看護師だったり、
とにかく人を助けたいという素晴らしい感性を持った素敵なひとびとだった。
これはとにかく、ラッキーなことだったと思う。

その当時、私が芸大に進むことを、まわりの大人たちは概ね反対していた。

担任教師は進路指導の時間の度に、私に進路変更を説得した。
私は本がすごく好きで、国語の成績がすごく良かったので、
私に国公立文系か、私立文系にしなさいと言った。
“高田さんは私立文系なら、トップクラスの有名大学にだって入れるんだぞ!!”
“なんでだ?”
“なんで芸大なんだ??”

私は絵を描きたいから、大学で絵画を学びたいのだと、その度何度も説明した。
けれど、その教師はどうやら、芸大全般はまともな大学だとは思っていないようだった。

両親は、私の気持ちは理解してくれていたが、
私を愛する故に、

“そんなつぶしのきかないところではなくて、普通の大学の方がいいんじゃないかな?”

と静かに説得した。

唯一、美術の教師だけは諸手を挙げて賛成して下さった。

“君にはものすごい才能があるから、絶対に上に進みなさい!”


私は私が描きたいことを知っていたけれど、正直どうしていいか分からなかった。
私が描くことを決めることを、皆が皆、喜んでくれないことが辛かった。


認められたかったのだ。



それであるとき、ボスに相談してみようと思い立った。

思い切って、ボスに全てを打ち明けてみて、
どう思いますか?と、どきどきしながら聞いてみた。


“高田さんがそうしたいと思うなら、絶対にそうした方がいい。”

“自分で決めなさい。”

“ただ、やりたいことをやらないと、いつまでも後悔するよ。”


これだけ、ボスが言った。

なんというか、
そのとき、私はすごくびっくりしたのだ。


ボスは、私の成績のことを何一つ聞かなかった。

ボスは、私に絵の才能があるかどうかなんて、全く気にならないようだった。

ただ、やりたいことをやれ、と言ってくれた。
そして自分で決めて、自分で責任を取れと。

国語の成績がいいから、とか、絵の才能があるから、とかじゃ全然無く。

もちろんボスは責任を取らない。

それでいいのだ。


私は救われて、そして、自分で、自分の意思で、画家になると決めた。

金輪際誰にも責任を押し付けない。

私だけの、大切な決意と責任だ。


そういうことを、突然思い出した。

ボス、ほんとうにあなたに会えてよかった。

私もあなたみたいになりたいです。

by yukotakada-work | 2012-05-02 17:00 | Comments(4)